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きいろいしっぽ5

あれから数週間。
彼女が叶えてくれるはずの俺の願いは一向に頭に浮かばず、彼女がいろいろ気にかけてくれる生活に慣れ始めている。
去ってしまうことは頭の隅にあるというのに。
今の生活が途方もなく幸せでしっくりくるから・・・・・・。

それにしても、いつまでも隠し通すことはできないとはわかっていたが、その瞬間が今とは俺も考えてはいなかった。










「あ・・・・・・。」



静かな廊下に落ちた小さい吐息は計3つ。
先ほどまで俺は社さんと仕事の打ち合わせで自宅のリビングに2人でいた。
そのあいだ最上さんには客室の物に化けててもらったんだけど。
打ち合わせが終わり社さんがエレベーターに乗って下に行くのを見送ったとこまでは良かった。
俺と社さんの声を聞いていたのか、最上さんがおずおずとエレベーターへと続く廊下まで出てきて、炊飯器のスイッチを押すのを忘れていたと報告され・・・ついついそこで立ち話をしてしまったのだ。

社さんが忘れ物をしたと言って再度、下へ行ったエレベーターでまた上がってきているのに気づいたのは最上さんの声がしたそのあと。



「れ、蓮、その子・・・・・・。」



「あ・・・・・・、社さん、えっとこの子はですね。」



「っっっ敦賀さんっすみません! 敦賀さんが部屋に戻ってから元に戻るべきでした!!」



隣では最上さんが焦ってぺこぺこと頭を下げている。
あんぐりと口を開けている社さんと最上さんを交互に見て、俺は溜息をつかざるを得なかった。
そうしていると社さんはうるうると瞳を輝かせて、俺の納得する言葉を投げかけることになる。



「彼女ができたんなら早く言ってくれれば、」



「っっ違います!!!!」



たしかにそう取られても仕方ないと思った瞬間、耳によく響く声で最上さんが叫んだ。
それはもう完全否定で。
ちらりと横を見ると目に涙をためて最上さんはわなわなと肩を震わせてた。

そうだよな、特別想っているわけでもない男と一緒にされるのは嫌だよな・・・。

しかしそこで心に浮上してきたのは、過剰にも膨れ上がった激情と痛み。
一体何からできたものなのかわからない。
とにかく、胸がひどくきしんでいるのがわかった。

そんな状態から逃げるためか、まずは社さんを部屋に促した。










「社さん、まずは黙っていてすみませんでした。」



「・・・・・・彼女ができたこと?」



「ちがっ、私は敦賀さんとは何でもないんですっっ。」



3人でリビングに落ち着いて、少し沈黙が続いたあと俺はまずは謝った。
社さんは何度か最上さんを見て、不思議そうな顔をしたが、やはりさっきと同じ見解でそれに答えた。



「最上さん、俺から説明するからお茶入れてきてくれないかな?」



なるべく優しくそう言うと、最上さんは不安そうに俺を見上げてから一つ頷いて、キッチンの方へと向かう。
彼女の姿が見えなくなるのを見た俺と社さんは、同時に詰まっていた息を吐き出した。



「で、あのことは一体どんな関係なんだ?」



「社さん、信じられませんでしょうがあの子は社長にもらったお土産・・・鉄瓶から現れたんです。」



「は?」



「で、願いを3つ叶えてあげます、と。なかなか俺の願い事が決まらないので決まるまで住んでもらってるんです。」



正直に話すと、社さんは言葉が出ないのかぽかんと口を開けたままこちらを向いて固まってしまった。
たぶん、信じられないと思うので、最上さんがリビングに戻ってきたら何かあの鉄瓶で出してもらうしか信じてもらえる方法はない気がする。



「あの、お茶です。」



緊張した面持ちで社さんと俺にお茶を持ってきた最上さんは、さきほどよりは少し落ち着いたようだった。
社さんに簡単だけど説明した、と報告すると、ばっと社さんを見上げた。



「あのっ、敦賀さんがお話しされたことは本当です。敦賀さんと私はただのお客さまと鉄瓶の関係であって、1ミクロンたりともその関係から脱したことはありません。お仕事についてもよくわかっております。その、スクープにならないように気をつけてますし、いままでもそういうことにはなら、」



「わかったわかった、落ち着いて。」



ただのお客と鉄瓶の関係って・・・・・・。
まぁ、しょうがないか。



「うーん、にわかに信じがたいけど、君の言いたいことはわかったから。まぁ、マネージャーの言葉とは思えないと思うけど、スキャンダル的なこともあってもいいと思ってたし。」



「っっだから私と敦賀さんはっ」



「まぁまぁ、そういう関係じゃなくてもいいってこと。なかなかこいつ、プライベートなとこないからね。普通担当してたら少しは出てくるんだけど・・・・・・だから、少しくらい優等生から外れてもいいと思ってたんだ。」



社さんはお茶をすすりながらちらっと視線をこちらにやる。



「あの、じゃぁ私ここにいてもいいんでしょうか?」



「俺が決められることじゃないんだろ? 蓮が嫌がってないんなら別に口を挟むことじゃないし。」



社さんからの許可の言葉をもらった最上さんはありがとうございますっとキラキラした瞳で頭を下げた。
しかし、
俺はそのとき彼女が聞き逃した社さんの呟きをはっきりと聴神経で受容してしまったのだ。










「蓮も君のこと好きみたいだし。」



そうして俺は気づいた。
この激情と痛みの名前を。


つづく




社さんの言葉で気づくなんてなんたるへたれ具合汗
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