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kanon - 香音 - 1

kanon - 香音 - についてを一度読んでから読み始めてください。




kanon - 香音 - 1











“シ”はカミ
“シ”はオニ



――――――いにしえより
伝えられし
カミにして神にあらず
オニにして鬼にあらず



――――――“シ”
人間は
闇を畏れて鬼と呼び
生を求めて神と呼ぶ










苦しい
足の傷が思ってたよりひどい
腕もひびがはいってるかも
口の中は切れていて血の味がどんどん濃くなっている



はぁ はぁ はぁ



どれくらい走ったのかわからないけれど、ひとまず彼らを振り切ったようだった。
二人のうち一人はかなり深手を負っていたはずだし……。
けれど、私一人では……。


真夜中の真っ暗な山の中を抜けて、視界に入ったのは満月の光に明るく照らされた石畳の道だった。
左右に目を向けて、先ほどから探している人物を求め、丘の上へと続くその道をまた走り出した。

上には小さい教会のようなものが見える。
走っていくうちに、だんだんとシルエットが大きくなっていくそれは、不思議な力で私を呼んでいるかのようだった。

やっとのことで辿り着いた教会の扉に両手をついてもたれ掛かる。
大きな木の扉。
何度か拳に力を入れて眼前に大きくそびえるそれを叩いてみた。



はぁ は はぁ



「…どこ?」



―――――桜
この香りは…桜
近くに桜があるのね



上を見上げると、小さくて丸い何かが落ちてきた。
それと同じ速度で目尻に溜まっていた涙も頬を伝う。
薄桃色のそれは気付くと自分のまわりにたくさん降ってきていて、微かに光を放っているようだった。



「尚… どこ?」



優しい香り…
香り…の音が―――――する



もう一度扉を数度叩いて、止めた。
手が切れていてドアが血だらけになってしまっていたから。



「しょ…ぉ―――――」



そこで私の意識はこの身体に留まることを放棄してしまった。





















真夜中、俺はうとうとと意識が遠のく中でその音を聞いていた。
ベッドから起き上がり、棚に置いてあった眼鏡を闇の中から取ると、音のする方へと足早に向かう。

一番近くにある村の大きさにしても少し大きな教会に住む俺は、一人静かにこの場所で祈りを捧げている。
このところ村である事件が起こっているし、もしかしたら被害がまたあったのかもしれないと思ったのだ。



女の子?



扉を開けると、視線の先には何もなかった。
しかし、月の光で鮮やかに隙間から見えたのは、薄紅梅をさらに薄くしたような色のローブ?
いや着物に近い素材の羽織りもの。
よく見ると中には橙がかった薄い黄色の浴衣に暗い緑の帯をしているらしい。
今の時代にしてはかわった着物を来ている少女がそこにいた。
いや、正確には倒れていた。










朝、いつもの祈りを捧げていると、開けてあった窓からひらひらと何か落ちてきて
それを無意識に手のひらを広げて掬ってみる。



「…桜



これがあの女の子を連れてきたのかな…?」



祈りを終えると、数日前 扉の前に倒れていた少女がいる部屋に向かった。
石造りの廊下に風が勢いよく入ってくる。
またあの子は窓を全開にしているらしい。

少女の部屋の扉がぎぃぎぃ音を立てて動いていた。

ゆっくりとした動作で部屋に入ると、俺が貸した白いシャツを着たままあの子はベッドの上で誰かに笑いかけていた。



「ああ、友達ができた?」



カーテンがゆっくりと舞って、窓の側にあるベッドに花びらを降らす。
彼女の手の上にはどこから来たのか小さな小鳥がいた。
桜の花をプレゼントされたらしい。



「プレゼントだね。君も桜が好きなんだ…。



もう…散ってもいい時期なんだけどね。
君が来てから桜は何故か元気になったみたいだよ。



さて、君の傷も看ておこうかな。」



彼女は風で乱れる肩までの黒い髪を手で抑えながら、ふわりと笑った。



「扉の前に倒れていた時はひどい出血だったけど、
……ずいぶん顔色がよくなったね。」



腕に巻いてある包帯を取ると、傷はなくなっていた。
ひどい腫れ方をしていた手首をそっと手に取るが、数日前に大怪我をしているような風には見えない。



「君は本当に不思議な子だね。
もうすっかり傷口がふさがって、この回復力はどうしたことなのかな。
神様が見守ってらっしゃるのかな。」



顎にも貼ってあった、大きめの正方形のばんそうこうをゆっくりと剥がす。
やはり顎の傷もなくなっていた。


「あごの傷もなくなったようだね。
よかったね、女の子だし。」



彼女はふんわりと微笑む。



「けど、困ったことが一つだけ…



君がどこの誰なのか全く消えちゃったこと…だね。



まだ…何も思い出せない?」



頭に巻いてあった包帯は彼女が自分で取ろうとしているようだった。
彼女が取った長い包帯を俺はくるくると手に巻きつけながら、やはり傷は癒えている彼女の額に手を添えた。



「君は変わった着物を着ていたし、どうしてあんなにひどい傷を負ってたんだろう。
君まだ10代だろう?
こんなに若い子に何が起きたか検討もつかないよ。
名前や…声を忘れるほどなんて。」



小鳥たちはいつのまにか去ってしまっていたようだった。
彼女は俺の表情を見て心配になったのか、子猫のようにすりすりと手に頬を寄せる。
きっとすごく優しい子なんだと思う。

バサバサとカーテンが音を立てる中、数日前と同じような音が遠くから響いた。
彼女も気づいたようでじっと部屋の外を見ていた。










ドンドンドン



「神父さま   大変なんです。」



ぎぃと扉を開けると数人の村人が青い顔でこちらを見ていた。



「どうしましたか。」



「また   また、吸血事件ですの」



震えた声で一人の女性が話し出す。



「今度はペットとか…家畜とかそんなんじゃなくて



神社の裏に住んでた、あのちょっとへんくつの川口のおじいさん



池のそばに死体が…身体に血が全然ないなんてヘンでしょ?
とうとう人間が犠牲になって…」



ほろほろとまばたきをする度に彼女の目からは涙が流れていった。
涙のせいで上手くしゃべれなくなった彼女の代わりに付き添いで来ていたもう一人が話し出す。


「…警察なんか本気でとりあってくれないし
ここは日本だ、って」



ここ数カ月、この近くの村では吸血事件が起こっている。
とうとう人間の被害者が出たことで、住人は少しパニックになっているようだ。
俺は、混乱している彼女たちをなだめ、ひとまず家で過ごすようにとなるべく安心させるように言って帰した。



つづく
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